VTuberと人形浄瑠璃は似てる?流行の理由を畑中章宏が民俗学の視点で考察

2017年頃から盛り上がりを見せるVTuber(バーチャルYouTuber)。
VTuberはYouTuberのように、自身が何かを体験したり視聴者と交流したりする動画をYouTubeで公開し続ける人々・キャラクターたち。YouTuberとの違いは、見た目が3Dモデルのキャラクター(アバター)であること。モーションキャプチャで取った動きのデータをアバターに当て、「中の人」が声を吹きこむ(しゃべる)。「キズナアイ」「ミライアカリ」「輝夜月」「バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさん(ねこます)」「シロ」などが代表的です。ブームの始まりで、最も有名なキズナアイさんのYouTube登録者数は170万を超えます。

ライター:CLIP編集部

初音ミク以来の衝撃ともいわれるこのムーブメントについて、『21世紀の民俗学』の著者でもある、民俗学者・編集者の畑中章宏さんに聞いてみるとVTuberと人形浄瑠璃の類似性が見えてきました。

そもそも民俗学ってなに?

――まずどうして畑中さんにVTuberについてお話を伺うかというと……『21世紀の民俗学』冒頭にこうあったからです。

わたしにとっての民俗学とは、まず「感情を」手がかりに、さまざまな社会現象に取り組む姿勢のことである。(中略)全く新しいと思われていることが古いものに依存していたり、古くさいと思われていたことが新しい流行の中に見つかる。

――ぜひ民俗学の視点で、いま流行っているVTuberを語っていただきたい、と。ただ改めて確認すると、民俗学ってどういう学問なんですか?

過去から現在まで続く伝統的なしきたりやお祭り・信仰・風習などが現在までどのように続いてるか、あるいはその起源や真意を探るのが民俗学だと思われる方が多いかもしれません。近代以前の昔について調べるっていうイメージが強いけど、民俗学を始めた柳田國男の考えでは、現在進行形の流行や風俗も民俗学の研究対象なんですよ。流行りそうだから発明されたのか、作ったから流行ったのかというのが民俗学の関心であり大きなテーマでもあるんです。

――民俗学は日本だけを対象にしていく学問のことを言うんでしょうか?

世界でもフォークロア(民俗)を研究する学問がドイツやフランス、イギリスなどにもあります。例えば日本の昔話でいう「姥(うば)捨て山」という話についてどういう感情から生まれたかを考えるとすると、他の国でも同じような伝承があるのを知らないと民俗学は成立しない。他国と比較することで、日本人の個性を知ることができるんです。

――なるほど。ひと言で民俗学を言い表すのは……難しいでしょうか?

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ん~、ひと言では難しい(笑)。日本人といっても為政者以外に、農業を営んでいる人もいれば、漁業をなりわいにする人、商人や工人もいる。だから文字資料に記録されたことだけでは、「日本人とは」っていう答えは出せないんですよ。だから口頭伝承とか習慣・風習に着目し、多くの民衆がどういう思いで日々を暮してきたか、と考える。過去の人が生活の中で何を楽しみにしていたか、どのようなテクノロジーで困難を克服してきたのか、を研究するんです。現在を生きる人々にとっても、過去の人が乗り越えてきた問題がヒントになるかもしれないな、と思ってます。

VTuberと人形浄瑠璃は本質的に似ている?

――ありがとうございます。民俗学が分かりかけてきた気がします。それを踏まえて質問しますが、VTuberがなぜ今ここまで人気を集めていると畑中さんは思われますか?

まずVTuberの前に、YouTuberに着目しましょうか。インターネットの発達とスマホの普及を背景に、リアルタイムで世界の情報が伝わるようになって、それと同時にエンターテインメントの多様化も進みました。ドキュメンタリーやお笑いといった洗練された番組がたくさん生まれた。ただ、視聴者はそういったテレビのように作り込まれたものだけでは物足りなくなったんじゃないかと思うんです。そこにYouTuberが登場し、温かみや結びつきの強さ、そして手作り感があるコンテンツがどんどんつくられるようになった。テレビ以上に身近に感じられるからこそ人気が出たんじゃないかな。テレビで爆笑するよりもクスッと笑えるくらいのものを人々が求めるようになったのでは、ということです。

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――テレビはリビングに置かれて家族で観られることを前提に番組がつくられてきましたよね。どちらかというと多くの出演者→多くの視聴者・家族。一方、スマホやパソコンは世界に広く繋がっているけれど、YouTuberは1人や数人が中心→個人の視聴者への対話、と構造が別れているように思います。

お笑い番組を例に挙げても司会者がいてひな壇があって、テレビの中で起こっていることを鑑賞するというのがテレビ。YouTuberにしてもVTuberにしても、洗練されたネットの中で一般人が低予算でくだらないことをやっているアンバランスさやギャップの面白さが受け入れられてるのかなって思います。

――例えばYouTubeチャンネルの登録数が日本では最も多い600万超のヒカキンさんでも、どれだけ多くの収入を得ていたとしても親近感のあるお兄さんという感覚がありますね。そこがヒットし続ける理由なのでしょうか。そんな中、可愛らしい声に3Dモデルの美少女アバターのキズナアイさんがYouTubeに参戦したのがVTuberの始まり。YouTuber ならではの親近感や手作り的な面白さが、VTuberによってそれまで興味を持っていなかった層にも届き、どんどん人気になっていっています。その要因は何なのでしょうか?

キズナアイさんからVTuber現象は始まっている。人気イラストレーター・森倉円さんがキャラクターデザイン。親しみやすく、観ていてポジティブな気分になります。

VTuberの動きって2Dのアニメーションよりもややぎこちない感じがしますよね。今まで人間がやっていたことをアバターが演じているのが面白い。あれがスムーズなアニメーションだったら、ここまでのムーブメントになってないと思うんですよ。そこまで見越しているならとても良くできているし、伝統を踏まえている、とも思うんです。

――それは面白いですね。どこらへんが伝統的だ、と思われるんですか?

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VTuberのその動きが、古くから日本人に親しまれてきた人形芝居を思わせるからです。日本の芸能の中で一番古いとされているのが、人形を使って芝居する傀儡(くぐつ)。日本では古来、人形に何かを演じさせたり、表現させたりすることを好んでいた歴史があるんですよ。その最たるものが人形浄瑠璃。人形を使って喜怒哀楽の感情を表すのは、ある意味人間が演じるよりも高度なテクニックがいる。ただ単に、ストーリーを伝えるだけなら実際の人間が演じた方がリアルで感情移入しやすい。でもなぜ人形浄瑠璃が歌舞伎に匹敵するくらいの人気を集め、現代に連綿と受け継がれているのかというと、人間が演じる生々しさ以上に、人形が表現する喜怒哀楽の方が民衆の心に深く突き刺さったからだと思うんです。VTuberの裏側にも、アバターを動かしている人がいるわけですよね。そこが伝統的な人形浄瑠璃に通ずる部分かな。人形が袖を濡らして悲しむ仕草の方が、人間が悲しむ演技をするより心に訴えかけることもあるんです。

――人形浄瑠璃とVTuberに通ずるものがあるのは面白いですね! そういえば「ねこます」さん(通称:バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさん)というVTuberは、アバターは狐耳を生やした可愛い女の子のキャラクターなんですけど、声はおじさんなんです。それでゲーム実況や、コンビニバイトの話をしたり、ユーザーと交流したりする。古典芸能でいうところの女形に通ずるのかなと思いました。おじさんが女性のフリをして日常を語る、という意味では「男が日記といふものを、女もしてみむとてするなり」で有名な『土佐日記』の紀貫之っぽいのかも。

中の人の声が男性(おじさん)という面白さ。ソシャゲとコラボしたり、どんどん人気者になっている。

いい視点ですね。それは僕もすごく人形浄瑠璃的だなと思いました。ねこますさんはVTuberの中でもかなり個性的な部類だと思いますが、異質だけど違和感がない存在として観られていますよね。他のVTuber四天王と呼ばれている存在も、声を担当しているのは声優さんとか、アマチュアの方だったとしても女性の方が多い。その中でねこますさんは男性の素人が演じている、しかもそれが受け入れられてるっていうのがすごく新鮮で面白い。

――人形浄瑠璃の人形遣いはそこまで個性を主張しないけど、VTuberって日常の出来事を話したり、その場のリアクションを見せたりします。そういう意味ではストーリーでなく、リアルな反応を人形浄瑠璃的な技法で見せる、というのが現代らしさなのかなって思います。

YouTuber もVTuberも確かにストーリー性はないけど、人形浄瑠璃も当時の上方での庶民の関心事である心中もの(『曽根崎心中』)がストーリーとして親しまれていたんですよ。現代人の関心事はVTuberやYouTuberが紹介する流行の商品やサービスとか、そういうのじゃないのかなって思うんです。つまり、最大の関心事はエンターテイメント。視聴者の興味があることを扱っているという点では、ストーリーはなくても人形浄瑠璃の心中ものと本質的な部分で大差ないのかなって思います。三面記事的な語りを人間やアニメではなく、人形にさせる。その古典的な部分と、3DCGのモデルとやYouTubeでの配信、最先端のテクノロジーがうまく合致した結果なんじゃないかな。

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「漫画村を燃やす」宣言で話題になったDeep Web UndergroundというVTuberなんかはマニアックでニュース性もあるけど、気軽に観るというより視聴者を限定して発信していますよね。そういう存在もいるけど、主流はストーリー性よりも人形的な見せ方が心を惹きつけているのかな、と思います。

VTuberヒットの裏にある、絶妙なぬるさ

――僕は輝夜月ちゃんが好きなんですけど……あだ名が「首絞めハム太郎」「見るストロングゼロ」で、特徴的な声とひたすらハイテンションなのが良いんです。正直なところ最初はVTuberの動画はあまりピンと来てなかったんですけど、輝夜月ちゃんを何回か観て友達感覚というか、騒がしいクラスメイトのしゃべりを聞いているような親近感を感じるようになりました。

ストロングゼロを飲んでしゃべっているかのような特徴的な声と、ストロングゼロのようなテンションの高さが魅力。

動きはもちろん、表情がころころ変わるのが人形浄瑠璃っぽいですよね。VTuberはそれぞれに個性があって魅力的。人間以上に感情表現の豊かさを感じるんですよ。

――なるほど。VTuberはほとんどの場合「中の人」の個性やタレント性で人気が出てるんだろうなって思ってるんですよね。中の人が持つリアクションや声の魅力と可愛らしいアバターが重なることで、よりVTuberの魅力が引き立つのかなって思います。

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人気の秘訣としては今の社会問題に結びつきすぎないようにしてるところだと思うんですよ。漫画村の件や実際の事件を扱った場合、生々しさがにじみ出る。もちろん話題になることはあるんだけど。現実と演出のバランスがみんなうまいよね。

――誰も傷つかないトークをしているのが上手だなって思います。わざと過激な発言でSNSを炎上させて注目を集めたりする動画もありますけど、VTuberはポジティブな意見と深すぎないコンテンツを生み出している。良い意味でユルいというか、刺激的すぎないコンテンツを多くの人が求めているんでしょうか?

理由を一つに絞るのは難しいけど、閉塞感みたいなものはみんな感じているんじゃないかと思います。ワールドカップやオリンピックといった大きなイベントに関心を持ちたくない人が増えてたりもするじゃないですか。マジョリティに対する反発っていうわけじゃないけど。また、オタクっぽすぎると拒否反応を示す人もいます。偏ったものやディープなものが特殊な情報を発信するってなっても、危険なものと捉えられてしまうと避けられる。だからオタクっぽすぎて避けられたり、中の人の個性が出すぎないようにしたりしているVTuberはバランスをとるのが上手いなと思います。アバターという没個性の人型が演じているおかげですかね。熱すぎず冷たすぎない、丁度いいぬるさがムーブメントの一番の要因なんじゃないかな。

[2018年06月29日 Zing!掲載]


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