2020年3月、日本での商用利用が開始された第5世代移動通信システム「5G」。その特徴としては「高速大容量」「高信頼・低遅延通信」「多数同時接続」を軸にこれまででは考えられなかった技術革命が行われると言われています。
しかし、この革命的な進化について、生活の上で具体的にどのような変化がもたらされるのか理解できていない方もいるかと思います 。「ネット見るのが速くなるんでしょ?」「動画がきれいにみれるんでしょ?」など、ざっくりとした認識をお持ちではないでしょうか。実はこの「5G」の使われ方やこれによりもたらされる未来は、皆さんが想像しているよりも画期的なのです。
今回は5G技術の世界標準化をけん引した中心人物の一人、東京工業大学工学院の阪口 啓教授に「移動通信システムとは何か?」ということをメインに、変貌を遂げてきた時代を振り返りつつ「5G」の凄さを教えていただきます。
※新型コロナウイルス感染拡大予防のため、オンラインでのインタビューを行いました。
ライター:CLIP編集部
携帯電話は権力者の持ち物「1G」&デートの誘いで緊張しなくなった「2G」
――本日はよろしくお願いいたします。
よろしくお願いします。
――ついに5Gのサービスが提供され始めましたね。まずはここに至るまでにあった歴史を振り返られればと思います。
主に1980年代に使用されたシステムが「1G」なのでしょうか?
その通りです。正直この頃は、モバイル通信がビジネスとして成り立つとは思われていませんでした。
――では「1G」の時代には、現在のようになっているとは想像できないまま「携帯電話」が作られていったのですね。
そうですね。その時はほとんどの会社が踏みとどまっていたのですが、この時に飛び出したのがNTTの子会社であるNTTドコモ。その後にも将来が見渡せていた会社だけが飛び出して、他の会社からは「お前たちは失敗する」と言われていました。
ですが蓋を開けてみると、ここまで成長した産業になっていったということです。
――そうして携帯電話が誕生していったんですね。当時は一般人が気軽に持てるようなものではなかったのでしょうか?
この頃の携帯電話というのはお金持ちの道楽に近い存在でした。運転手付きの車に電話が付いている「自動車電話」として誕生したのがはじめなんですよ。これは、移動している時も連絡を取らなければいけない人、つまりは会社の社長や政府の要人、首相などが使用していました。しかし使えるのは、東京などの限られたエリアのみ……今考えれば拙いものですね(笑)。 それをそのまま肩に担いで外に出たのが「ショルダーフォン」です。
ここまでが「1G」時代の携帯電話ですね。
――「ショルダーフォン」といえば芸人の平野ノラさんのイメージでバブリーな恰好をした方が持っているというイメージですが、ここから一般の方にも携帯電話が浸透してきたんですか?
浸透はしていなかったんじゃないですかね。わざわざ大きくて重い「ショルダーフォン」を肩に担いで外に出るくらいですから、それを持って行ってでも必要としている仕事の方、メディアの取材班の方などが使用していましたね。まだまだ一般の方は使用していないと思います。
――では、平野ノラさんは肩パッドを入れたバブリーな取材班を演じていたということになりますね(笑)。
では「2G」時代についてお伺いしたいと思います。
「2G」が1990年代頃で、この時代から携帯電話がデジタル化されて小型になっていきました。この時期から一般の方、特に若者たちが持つようになりましたね。携帯電話が普及して、個人に電話ができるように変化していったんです。
――それでは、この時代から実家住まいの彼女をデートに誘うときに、お父さんが電話に出るのを気にしなくてもよくなったのですね(笑)。
小型の携帯電話が出始めたこの頃から、世の中が変わっていったのでしょうか?
そうですね、ここからだと思います。
通信の世界が大きく広がった「3G」
――では「3G」環境での携帯電話はどのようなものなのでしょうか?
「3G」は2000年頃に始まった通信サービスです。一番大きな変化としては、国際標準化されて国際電話ができるようになったことですね。日本の携帯電話を国外に持って行ってもそのまま繋がるようになりました。わかりやすく言うと、世界のどこに行っても通じる統一言語を作ったようなものです。
ちなみに今、皆さんが一般的に使用している「Wi-Fi」も1999年に作られ、この頃には使用されていましたよ。
――そうだったんですね!? てっきりスマートフォンが発達してきてから誕生したものかと思っていました。
「Wi-Fi」と「携帯電話」はそれぞれ独立して発展をしていました。来たる「3G」時代に、一つの端末で両方とも利用できるようになったのです。
そもそも「Wi-Fi」はパソコンのために開発されたものです。インターネットのケーブルをオフィスに引くと、多くて困っちゃうじゃないですか。その問題を解決するために無線を使う、というのがそもそもの目的なんですね。そして予想外だったのが、携帯電話でインターネットに繋げることができるようになった点。
――私が携帯電話を持ち始めたころは当たり前にインターネットに繋がっていたので、あまり実感が湧かないのですが、インターネットに繋がることによってどのような進化があったのでしょうか?
アクセスできる情報が増えたのは圧倒的な進化ですね。「2G」までは携帯電話は「人と人」のつながりが全てでしたが、「3G」からの携帯電話は「人と情報」が繋がるようになったんです。
例えば、今や普通に使っている「乗り換え検索」はとても便利だなと思いませんか。それまでは事前に時刻表をチェックして覚えて電車に乗っていたわけですから。それに費やす時間も節約できて他のことをする時間にできたのは大きいですよね。
――情報と繋がることが人々の進化をより促進させているんですね。ちなみに、スマホが出てきたのも「3G」からですよね?
「4G」になる寸前、2007年くらいにスマホが登場します。後で説明するのですが、これは大きな転換期となります。
幻の「3.9G」。そして世界を大きく変えた「4G」
「4G」の説明をするには、少し解説しておかないといけない部分があります。それは「3G」の正式名称。実は「3G」というのはニックネームみたいなもので正しくは「3GPP Rel.99(スリージーピーピー リリースナインティナイン)」と言います。「1999年に作られた3GPPのリリースです」という意味ですね。
そして「3GPP Rel.8(リリースエイト)」、つまり2008年に作られた「3G」のアップデートバージョンが「4G」の正式名称なんです。
本当はこの後に「3GPP Rel.10」というものが作られる予定だったんですね。これを「4G」と呼ぼうと、標準化団体では決めていたんです。
――なるほど。ではなぜ「3GPP Rel.8(リリースエイト)」が「4G」なんでしょうか?
我々開発・研究者側としては、「3GPP Rel.8(リリースエイト)」は「3.9G」と呼ぼうとしてたんですが……キャリアが勝手に「4G」という名前を使ってしまったんです。そちらの方が売れやすいので……。
――幻の「3.9G」があったというわけですね。
キャリアが「4G」と呼ぶのも理由は少し理解できるところはあって、「3GPP Rel.8」はひとつ前に比べて大きな発展があったんです。だからもうこれを「4G」と呼んでもいいか、となったんです。
――それほどまでに大きな発展があったんですね。
それまで利用されていた方式は、高速化に限界があったんです。ですが、「3GPP Rel.8」での方式はどれだけ高速化しても原理的に品質が変わらないんです。
「3GPP」のリリースは世界中の専門家が集まる会議で全会一致しないとできないことになっているんですよ。それも1000人も。この発展は業界としては大きな進歩だったんですよ!
――そういえば、「4G」の前に「LTE」と言うものがあったと思うのですが、これは何だったんですか?
「LTE(Long Term Evolution)」と言うのは、幻の「3.9G」の別名ですね。一時期、携帯に「LTE」と表示されていたので、覚えている人も多いと思います。
「3.9G」をキャリアが勝手に「4G」と言ってしまったのですが、その後に正式な「4G(3GPP Rel.10)」がリリースされるので、「3GPP Rel.8」を「LTE」という表記に変えたのです(笑)。
こういう名称の付け方は販売戦略によるものですね。例えばドコモから「FOMA」というものが販売されていたんですが、売れなかったので「3G」という名称に変えて売ったことがあります。「3G」「4G」とカテゴライズしたのは実は後受けで、このようにした方が売りやすかったんですね。
ただし「5G」だけはそういう販売戦略に巻き込まれないように、「『3GPP』の『Rel.○○』から『5G』と呼びます」というのを世界中に告知しているんです。
――私たちの知らない事情が色々とあったのですね……。
では「4G」は、世の中にどのように変化をもたらしたのでしょうか?
「4G」は安定して回線に繋げられるようになったので、いろんな機能が追加されました。カメラを使用した「ビデオチャット」ができるようになったのも、安定した高速通信で映像の転送ができるようになったからですね。それから自分の仕事環境である「クラウド」へのアクセス、地図情報をリアルタイムに映し出すのも大容量の地図データとGPSを連動できるようになったからですね。
――今当たり前にできていることが「4G」によって誕生したということですね。2020年に「5G」となりますが、この10年では、どのように進化していったのでしょうか?
それはとてつもない進化があったのです。だからこそ、「5G」と名称を変えようとなった訳です。
――とてつもない進化、ですか……。すごく興味が湧いてきました!
と、今回はここまで。「1G」から始まり「4G」までを振り返ってきましたが、時代を遡りながら、様々な発見があったのではないでしょうか?
次回は、社会に革新的な進化を推進させる「5G」の実態に迫っていきたいと思います!
関西一円で高品質な光回線を提供するオプテージでは、様々な事業に携わるお客さまの通信課題を解決するため、2019年より5Gサービスの実現を目指して活動しています。
2020年6月には西日本初となる「ローカル5G」の周波数を用いたオープンラボ『OPTAGE 5G LAB』を開設。LABでは、実際に稼働している5G用の無線基地局や5G端末(モバイルルータ)などを展示し、より身近に5Gの世界を体験いただけるほか、お客さまと共にさまざまな実証実験を行うことができる環境をご提供いたします。
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