コロナ禍で業績好調のChatworkに訊く。テレワークでの働き方はどう変化する?

新型コロナウイルスの影響でテレワークに移行し、チャットでのコミュニケーションが増えた方は多いのではないでしょうか。数あるビジネスチャットの中で国内利用者数No.1*のシェアを誇る、国産のチャットツールが「Chatwork」。「Chatwork」を開発・運営するChatwork株式会社のコロナ禍での業績は好調。テレワークの働き方は今後どう変わっていくのか。DX(デジタルトランスフォーメーション)の役割が増す中で「Chatwork」はどんなポジションを担うのか。
Chatwork株式会社 執行役員CSO兼事業推進本部長、福田升二(ふくだしょうじ)さんにお話を伺いました。

*Nielsen NetView および Nielsen Mobile NetView 2020年6月度調べ月次利用者(MAU:Monthly Active User)調査。調査対象44サービスはChatwork株式会社にて選定。

ライター:平田提

テレワークが増え、業績好調のChatwork。登録ID数は5月~前年比36.5%UP

テレワークが増え、業績好調のChatwork。登録ID数は5月~前年比36.5%UP

――「Chatwork」の登録ID数が新型コロナウイルス流行以降に大きく伸びたと2020年12月期第2四半期決算説明会で発表されていました。株価も3月時点から10月でほぼ2倍になっています。

福田升二さん(Chatwork株式会社 執行役員CSO兼事業推進本部長、以降 福田さん):新型コロナウイルスでテレワークの方が増え、業績にはポジティブな影響が出ています。
2020年3月と緊急事態宣言が発令された4月に大きくユーザー数が伸び、5月、6月、7月くらいから落ち着きました。ただ、5月以降の登録ID数も前年比で36.5%ほどのベースアップとなっています。

――登録ID数が伸びた原因は何だと思われますか?

福田さん:ビジネスコミュニケーションツールには大きく分けて「同期型」「非同期型」の2種類あり、コロナ禍で業績が大きく伸びたのは同期型。
同期型はその名の通り、Web会議室にログインするなど同じ時間に縛られないといけないものでビデオ会議の「Zoom」さんなどが代表的です。
非同期型はリアルタイムでなくとも返事ができるもので、「Chatwork」は非同期型。
テレワークになって多くの方に第一想起されていたツールは同期型でした。ただテレワークで常にオンラインでいるのはストレスがかることも多い。口頭でのやりとりが非効率な場合もあります。
そうして徐々に非同期ツールのほうがスムーズに業務ができると判断する方が増えてきて、ユーザー数が伸びたと考えています。

――コロナ禍以前、以後のユーザーで属性の違いはありますか?

福田さん:そこまで大きな違いは出ていませんが、今まで「Chatwork」を使われていなかった幅広い業態・業種の法人さんに新しく利用いただけるようになりました。もう一つは既存のお客様からの追加発注が大きく増えていること。
チャットツールのセキュリティ審査が理由でテレワーク移行に遅れてしまった企業さんが多くあります。
「Chatwork」は法人単位ではなくユーザー単位で契約できるため、どこかの部署で既に使っていただいていた法人さんが横展開するケースが多く見られました。

チャットツールは今後コモディティ化。Chatworkは国産の優位性を活かす

チャットツールは今後コモディティ化。Chatworkは国産の優位性を活かす

――登録ID数が増えると、サーバの増強などバックエンドの対応は大変だったのではないですか?

福田さん:確かにトラフィックは増えたのですが、サーバが落ちることはありませんでした。国産のSaaSがスケール化するとき、巨大なトラフィックを支えきれず障害を起こすことはよくあります。ただ「Chatwork」は以前から堅牢なシステムを開発できていたのとエンジニアの冷静な対応のおかげもあり、安定性を維持できています。
データ通信量の大きいビデオ/音声通話機能「Chatwork Live」の利用頻度は上がりましたが、もともとこの機能はV-CUBEさんのOEMで提供していることもあり、負荷が分散できました。

――そうだったのですね。「Zoom」とのサービス連携を2020年7月より開始されていますがビデオ/音声通話「Chatwork Live」の機能がありながらも協業されたのはなぜだったんですか?

福田さん:「Chatwork」はチャットツールが主体で、ビデオ/音声通話「Chatwork Live」機能はオプションに近い使われ方をしてきました。コロナ以降のテレワークでは「Zoom」の利用が爆発的に伸び、URLを発行してWeb会議にアクセスするのがデファクトスタンダードになっていました。その流れに乗り、Chatworkからシームレスに「Zoom」を使えたほうがユーザーさんにとってメリットがあると考えたんです。既存ユーザーのみなさんにも良い評価をいただいています。

――今後予定されている協業はありますか?

福田さん:具体的にまだ申し上げられるものはないのですが、協業のポイントは「Zoom」さんのときと同様、ユーザーのみなさんの利便性が上がること。新しくスタンダードになるサービスがあれば協業していきたいと考えています。
たくさんのWebサービスとAPIで連携できるようにして、ユーザーの方に選んでいただくのではなく、しっかりと協業相手を厳選して連携していきます。

――他にもビジネスチャットツールなどがビジネスの現場ではよく使われていると思います。そういった競合サービスとChatworkの差別化ポイントを改めて教えてください。

福田さん:中長期で見ると、チャットツールはコモディティ化していき、機能の差分が少なくなっていくでしょう。そうすると差が出てくるのはアプローチ。「Chatwork」の特徴は純国産であること。開発・インフラ拠点は日本にあります。日本企業の顧客の理解やコミュニケーションがしやすく、フィードバックを得やすい環境を活かしたサービスが差別化ポイントだと考えます。
「Chatwork」の利用企業は中小企業が多く、必ずしもITの知見に明るい方たちばかりではありません。農園や介護業界などでも、毎日のチャットツールとして広く使われています。選択肢や機能が多すぎて「何をしたらいいか分からない」となるのではなく、どなたでも直感的に分かりやすいUI・サービスにすることを心がけています。

チャットツールを導入していた企業のテレワーク移行はスムーズだった

――新型コロナウイルスの流行以降、「Chatwork 助成金診断」の使われ方や利用者数に変化はありますか?

福田さん:「Chatwork 助成金診断」は専門家が法人や個人の方に適した助成金を代わりに探すサービスですが、こちら新型コロナウイルスの影響で状況が変わっています。
コロナ禍の前は比較的景気が良く、人手が足りない企業さんが多かったので、助成金のニーズもポジティブなものが多くありました。例えば非正規雇用の方を正規雇用する、特定の研修を行うと下りる助成金などです。
コロナ禍以降は雇用が減り人件費を減らしたい法人が増えました。ネガティブな理由での相談が増えるか助成金利用が減るかと思っていたのですが、問い合わせは増えました。新型コロナウイルスに関する助成金はもちろん、雇用を含め使える助成金を探して積極的に事業を進めようという方のご相談が多かったんです。

――Chatworkでは緊急事態宣言発令以降の働き方は変化されましたか?

福田さん:原則、テレワーク勤務になっています。Chatworkの会社なので当然ですが(笑)社員はみなチャットツールを使いこなしていますし、テレワークにはスムーズに入れました。
内閣府の一般向け調査では「今後もテレワークで就労したい」意向が34.5%だったのに対し、Chatwork利用者への調査では81.1%と、チャットツール利用経験者ほどテレワークでの業務が円滑に進められている傾向が見えてきました。

テレワークの就労経験
Chatwork株式会社「Chatwork、コロナ禍での働き方の変化に関する調査結果を発表」より抜粋

――チャットツールの導入がテレワーク移行の試金石になっているんですね。

福田さん:そうなんです。当たり前にチャットを使っていた方たちはそこまでコロナ禍以降、課題を感じなかったようです。一方で対面のコミュニケーションできなくなったことで、中途社員の所属意識が薄くなったり、リモートというより在宅ワークで負担が大きくなったりという問題はあります。そもそも日本の住環境が在宅ワークに適していないこともあります。 

Chatwork株式会社

――在宅ワークにとって、日本の住環境のどういった点が課題と思われますか? 

福田さん:共働きのパートナー二人で在宅ワークをした場合、一人がリビングのテーブルを使っているともう一人が使えない……という状況はよくあります。部屋があまり広くない日本の住宅事情、間取りの影響もありますね。お子さんを保育園に預けられず、ビデオ会議中に赤ちゃんの声や子供の走る音が聞こえるのは日常風景になりました。
企業の多くはテレワークじゃなくて在宅ワークを求めているんですよね。多くの人はカフェやコワーキングスペースに行ってまで仕事をすることはできません。こういった状況に柔軟に対応していかないといけないでしょう。
在宅での良い事例についてはほとんどの人が未経験なので、これからいろんな会社がそれぞれの「良い」定義をしないといけないんだと思います。

――在宅ワークの良い定義、確かに環境や人によって違いそうです。Chatworkさんではどんな取り組みをされていますか?

福田さん:さすがに部屋の間取りは変えられませんが(笑)、働き方をより良くする補助を進めています。在宅ワーク用に必要なPC周辺機器や在宅勤務のためのグッズ費用を1製品につき購入金額の半額を補助する「一歩先の働き方支援制度」であったり、Bluetoothのイヤホンを配布したり、オフィスチェアーを自宅に配達したりしています。

――会社で使っている椅子をそのまま使えるのはすばらしいですね!

福田さん:在宅ワークでは腰痛など身体を痛める心配も大きくなります。仕事で健康を害すようなことがあってはいけませんから、こういった環境を整えることも会社が支えないと、在宅ワークが成り立たないと考えます。
労務問題や電気代の管理など、私たちだけでなくどちらの企業でも試行錯誤の途中だと思いますが、まずはハード面からできることをやっています。

Chatworkはスーパーアプリへ。テレワークが働き方の基本、対面がオプションに?

Chatworkはスーパーアプリへ。テレワークが働き方の基本、対面がオプションに?

――「アフターコロナ」「ウィズコロナ」と呼ばれる状況で、対面のメリットはどう変わっていくと思われますか?

福田さん:今までは対面がベースで、テレワークはオプションでした。これからはテレワークが前提で、対面がオプションになる。その中で、それぞれの良さが定義されていくでしょう。
私個人としては、会社への所属意識を持ったり、新しい社員の面接・研修などを行ったりするには対面が必須だと思います。社員全員でディスカッションしたり、ブレインストーミングしたりといった場の空気やプロセスが重要なものも対面の方がメリットは大きいでしょう。ただ今後も様々なテクノロジーが代替できることも増えていくでしょうし、商談などは比較的リモートの方が効率が良いこともあると思います。

――一方でテレワークのメリットは改めてどうお考えですか?

福田さん:コロナ禍での働き方は何が正解か分かっていませんが、テレワーク・在宅ワークのメリットはいくつか出ていると思います。コストのかかる展示会でマーケティング活動を行わなければいけなかった企業が、今は低コストのウェビナーでの営業ができます。同期型・非同期型のコミュニケーションツールを一通り多くの人が体験したことは大きいでしょう。
テレワークが良い・悪いという問題ではなく、働き方の選択をしないといけない時代だと思います。その選択をミスすると採用ができなくなったり、成長できなくなったりする可能性がある。「どういう環境を用意しているか」や働き方が企業を選ぶ軸になっていくでしょう。多くの企業が東京で働く前提が崩れ、雇用の流動性や事業の幅が広がる一方、弊害が出る可能性もあるので、その流れの中でうまくChatworkが補助できていくと良いと考えます。

――こういったビジネスパーソンの働き方の変化の中で、Chatworkではどういった領域を担われていくんでしょうか。

福田さん:Chatworkがやりたいのはビジネス上のコミュニケーションをアップデートすること。チャットツールはつくづく面白いサービスだな、と思っています。SaaSの多くは「いまやっていること」の代替なんです。会計、捺印など通常の会社のフローにあるもの。しかしチャットツールが代替しているのは、会議やメール、スケジュール、タスクなどコミュニケーションなんです。Chatworkはテレワークをしていない会社でも使っていただけるし、幅広くDXのトレンドの中心にいられる可能性がある。
コミュニケーションツールが電話だけの会社では、その資料やログのデータが蓄積されていないことが多いです。コミュニケーションの課題認識から改善まで、Chatworkがお手伝いできることは多くあると思っています。 

――『「Chatwork」はビジネス版スーパーアプリへ』という発表が決算資料にありました。ヘルスケアや人事関連に取り組むSaaSがありますが「Chatwork」でもこういった分野に進出する可能性はありますか?

「Chatwork」はビジネス版スーパーアプリへ

福田さん:ビジネスに関わる労務の観点でヘルスケア分野に進出する可能性は当然あると思います。スーパーアプリ化については自社開発やAPIの連携だけではなく、M&Aやアライアンスも視野に入れています。一番取り組みたいのは、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)のお手伝いをすること。「Chatwork」のサービス郡を使っていたら、「いつの間にかDX進んでいた」といわれる状態がつくりたいです。
私は以前、介護系サービスを展開するエス・エム・エスでSaaSなどの責任者をしていたのですが、介護のような領域こそDXが進んでほしいと思っています。コロナの影響で苦しい業界ですが社会基盤でもあるので、対面のやりとりの代わりにできる部分をChatworkが担えたらと思います。


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  • 編集者・ライター

    平田提

    株式会社TOGL代表取締役。秋田県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。メディアの編集や、経営者・映画監督・音楽家・漫画家らへのインタビュー、アニメ・エンジニア関連のコラム執筆等を行う。

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