五感に配慮。木素材のスマートホームIoT機器「mui」

インターネットとモノをつなぐ「IoT(Internet of Things)」。スマートフォンで外出先から家電を遠隔操作したり、高齢者や子どもの安全をサポートしたりと暮らしを便利にするIoTは進化を続けています。今回は木素材でプロダクト化された最新のスマートホームインターフェース「mui」について、開発者のインタビューをご紹介します。

ライター:CLIP編集部

実は30年前からあるスマートホームの歴史

実はスマートホームは、30年前からすでに登場していました。日本では1990年代にOS「TRON(トロン)」を組み込んだ「トロン電脳住宅」といわれる未来住宅プロジェクトが始動。当時は実験住宅として研究開発されました。この住宅をベースに、後々商品化されたものもあります。温水洗浄便座や人感足元灯、植物に自動的に水をやるシステムなどです。
そして2014年、家庭のさまざまな機器とスマートフォンとの接続を前提としたAmazon Echoが登場。追って人工知能搭載のスマートホームデバイスが次々に登場しました。その中でも「mui」は、IoT機器としては珍しい木素材で開発され、「穏やかなテクノロジー」という新たな概念と生活体験をもたらすプロダクトとして脚光を浴びています。

木の素材を使った新感覚デバイス「mui」

――今回は「mui」を開発した「mui Lab株式会社」のクリエイティブディレクター廣部さんにお話を伺います。まず「mui」とは、どのようなIoTでしょうか?

mui

廣部さん:muiはインターネットにつながるデバイスで、家庭内に飛んでいるWi-Fiに接続して使います。外装デザインとして天然の木を使っていますので、いわゆるディスプレイが見えないような仕様になっています。機能としては大きく分けて3つ。
1つ目は、インターネットの情報を表示すること。
2つ目は、インターネットにつながる機器、いわゆるスマートデバイスなどのスマート家電と連携することができること。
3つ目は、コミュニケーションの機能と呼んでいるんですがモバイルアプリと連携してメッセージを家族で送り合ったり、例えば家族の予定を書くカレンダーを表示したりもできます。

――家庭内のデバイスを操作できる、GoogleHomeやAlexaなどに近いインターフェースでしょうか?

廣部さん:ほぼ近いと思います。私たちも「mui」を作るときに音声認識スマートスピーカーが発売されていましたので、参考に使ってみたりしながら開発を進めていました。ただ、機械からあたかも人のような声で返してくるやりとりがちょっと不思議だなと思いました。英語の発音がうまくできないとか、うまく意図が伝わらないこともあったりして音声を使った認識コントロール技術というのはまだ過渡期じゃないかなと思い、なにか別の形でモノづくりができないかということを考えました。

――muiはなぜ「木」にフォーカスしたのでしょうか?

廣部さん:室内空間で使うものを考えていましたので、新しいテクノロジーが家の中にやってくるときにどうしても新しいプロダクトがやってくる感じになってしまうことに対して違和感がありました。ですので、機能だけが家の中にやってくるような状況を作りたいと思っていました。家の中で、壁につけて使うことを考えたときに、建築やインテリア空間で使われる材質をイメージして、土壁や木、石やガラス、布みたいなものを考えて、まずは試作してみたんですね。それを米国の展示会に出してみたところ、賞をとったんです。そこから本格的な事業化が始まりました。

――展示会の反応はいかがでしたか?

廣部さん:多くの方が、木から出る情報に対して、とても温かいという印象を持たれました。女性の方は特にかわいい、と言ってくれて。木に対しての反応が良くて、その後に自分たちで、なぜ人は木に対して反応が良いのか、というのを深掘りしていきました。
ちょうどその頃、ご縁あって岐阜県の森林豊かな飛騨市に合宿に行くことがあり、そこで林業に携わる方や職人の方々とお話して理解を深め、さらに子供達の木に対する反応などを見ることで木の持つ良さを理解していきました。
そこで分かったのは、人は木に対して安心感や癒しを感じ取ったりするということです。そもそも私たちが触れている家具などは人の手が入ったものなんですよね。森で見た木はもっと荒々しく、そのままでは力強すぎるので人の手で心地良い状態に整えられていることを知りました。ただ、その木という素材を工業製品に使うには多くのハードルがあり、簡単には採用できないこともわかりました。それでも設計チームと議論を重ねつつ、一年越しでようやく製品として世に送り出せることができたことはmui Labの総合力だと思っています。そのブレイクスルーが功を奏し、国際特許を取るに至りました。我々のビジョンである、暮らしの中のテクノロジー機器を自然で穏やかなものにするというものが、この特許によって担保されるビジネスモデルが確立する一歩となりました。

――muiを開発されるにあたってご家族とのエピソードがきっかけになったこともあるとか。

廣部さん:私は毎日朝ごはんを家族で食べているんですが、ある朝、子どもが牛乳をこぼしてしまったんですね。その瞬間、同時に奥さんの携帯が鳴って、奥さんはそっちの方に気を取られてしまったんです。子どもは牛乳をこぼして「あー・・・」みたいな顔をしているのに、奥さんは遠くの誰かからのLINE通知に気を取られて、子供の異変に気づかない。家族の朝ごはんという時間のなかで、突然、奥さんがテクノロジーによって別の世界に引っ張られていってしまった、という感じがしまして。家族の何気ない時間なのですが、そんな、「ハレとケ」で言うところの「ケ」を大切にしたい、今ここにある家族の時間を大切にしたい中で、テクノロジーのあり方について疑問を持ったのです。

――日常の大事な部分ではないけど、少し引っかかったところがあったということですね。

廣部さん:家の中でそこまで外部とつながっている必要がないんじゃないかな。でも、まったくすべての情報を遮断して家族だけで、っていうのも何か極端な気がしますし、家族にとって本当に必要な情報のみを得られるデバイスのあり方を模索し始めました。プロトタイプができた時、家に持ち帰って家族で使用しましたね。

――ご家族の反応はいかがでしたか?

muiを操作する男の子
muiを操作する女の子

廣部さん:私には子どもが3人いまして、「mui」の開発を4年くらいやっていると、徐々に子どもたちも大きくなって、うまく使いこなしてくれますし、率直な意見を言ってくれます。使いにくいとか、意味がわかんない、とかって。大人はいろんなことを考えて想像して使ってくれるんですけど、子どもは直感的に使用します。家にスマホもタブレットもパソコンもあり、様々なデバイスが使える中で、「mui」を並列で見てくれて、遠慮のない意見をもらえる、っていうのが開発には非常に役に立っているなと思っています。

――ご家族の協力は開発には必要不可欠でしょうか?

廣部さん:使い方がちょっと変わったりすると、「なんで変わったん?」とか、開発のテストをしている時は、会社に持っていかないといけない時があるので、「mui」があった場所がぽっかり空いてしまうんですね。子どもたちはそれを見て、「もうmui戻ってこないの?」と聞いてきたりします(笑)。

子どもたちもついつい触りたくなる「mui」の機能

廣部さん:家の電気も今は「mui」でつけたり消したりしています。3人兄妹でお兄ちゃん達がよく使う中、一番下の3歳児は、見よう見まねで触って電気を消したり、メッセージも送ってきたりします。まだ文字は書けないんで、落書きみたいなものですけど(笑)。

――メッセージも送れるんですね!

廣部さん:スマホからは、muiアプリを通じて、LINEと同じくテキストで文字を打つと、muiボードにテキストで表示されます。muiボードの方からは、手で画面に直接書く、もしくは音声マイクが付いているのでボイスメッセージを送ることもできます。
その二通りの方法で送信すると、手書きだったらスマホの方に手書きの画像が出てきて、音声だったら録音された音が出ます。

――そんな「mui」を体験できる場所が、京都の町家をスマートハウス化した「人生を紡ぐ家」。

人生を紡ぐ家

廣部さん:京町家のリノベーション住宅を企画・販売している不動産会社の八清さんという会社がありまして、町家改装の設計の段階でお声がけを頂いて、今回「mui」を入れて、スマート町家を一緒に作りましょう!ということになりました。我々の方で、スマートメーターを導入したり、「mui」で制御できるエアコンを取り入れるためにSHARPさんをご紹介したり、回線はオプテージさんをご紹介したりと、様々な会社が協力し、出来上がったのが「人生を紡ぐ家」ですね。

――「人生を紡ぐ」と題した意図はなんでしょうか?

廣部さん:家族のやりとりのメッセージはデータで残っていくんですが、それらのメッセージは、家族の思い出として時空を超えて伝えられるものです。普段の何気ないやりとりであっても、そこに情緒が付随する。muiは、家族の軌跡を紡ぐための助長材として使ってもらえるので、「人生を紡ぐ家」と名付けました。

――ありがとうございます。最後に「mui」を使ってもらうことでどんなことが起こってほしいでしょうか?

muiのある暮らし

廣部さん:こういう新しいことを考える仕事だからと言い訳になるのですが、仕事が好きなばかりに平日は家に全然いないんですよね、帰りも遅くなったり。何とか朝はコミュニケーションを取れるのですが、なかなか夕飯を一緒に食べたりできないんです。私が「ご飯何?」と送ると、「焼きそばやで」とか「ビール冷えてるで」とか返ってきます。そんなちょっとしたやりとりを、個人的なコミュニケーションに終始してしまうスマホでやるのではなくて、家の中にかかっているmuiボードを通じて行うことで、家族全員が私からのメッセージを直接受け取れて返信できる。私も家族も、ちょっとでもお互いのことを思う時間になってますし、スマホとは違った体験を感じ取れているんじゃないかなと思ってます。

――本日はありがとうございました。

まとめ

最新のIoTといえば、近未来感溢れ、不思議な形をしているものが多いです。穏やかなテクノロジーという新たな概念と生活体験をもたらすプロダクト「mui」は単なる便利なIoTだけではなく、家族の思い出を残すための家族のためのIoTなのかもしれません。

mui 公式サイト


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