前回はポケモンなど「お金のかからない」通信ゲームの話でしたが、今回は1990年代半ばに流行った「お金のかかった」通信ゲームがテーマ。ここでいう通信とは、世界に繋がるインターネットのことです。
今でもスマートフォンの通信料金や各家庭での光回線などに月額費用はかかりますが、当時はそれどころではありませんでした。「およそ3分で10円(それも市内で)」といったように、時間に比例して料金がかかる従量課金で、固定電話の回線が使われていたからです。現代のように固定料金・常時接続のインターネットなど、影も形もなかった時代なのです。
ライター: 多根清史
通信ゲームの進歩は月額制通話サービスで劇的に変わった
そんな状況をガラリと変えたのが、1995年に開始された月額制の通話サービスです。深夜の23時から翌朝6時までに限り、あらかじめ指定した2つまでの電話番号に対して、何時間通話しても料金が一定となるサービスでした。それまでの電話回線を使う通信ゲームは利用すればするほど電話料金もうなぎ上りでしたが、これによって上限が設けられ、懐事情に優しくなったわけです。
その翌々年、1997年にインターネットを経由する通信ゲームの歴史を変えたと言っても過言ではないPC(パソコン)ゲーム『Diablo(ディアブロ)』が登場しました。アメリカのブリザード・エンターテイメント社(以下ブリザード社)が発売した当作品は、3作目である『Diablo Ⅲ』がNintendo Switch(ニンテンドースイッチ)向けにも発売され、最新作「Ⅳ」も昨年末に発表された(未発売)20年以上の間人気を博しているシリーズの第一作であります。
『Diablo』は地下迷宮を突き進み、人間界を脅かす悪魔・ディアブロを倒すことを目的とするアクションRPGゲームです。ストーリーを楽しむというより「敵を倒して経験値を得て、さらに敵を倒す」の繰り返しに重きを置く、ハック&スラッシュというジャンルに属しています。ただマウスボタンをクリックして、敵を倒して入手したアイテムで主人公を強化、そしてまた敵を倒す。その無限ループの快感に、一度ハマったら抜け出せない作りになっています。
ネットワーク知識がなくても遊べるオンラインゲームサービスBattle.netは画期的だった
そんな基本システムとともに多くの人々を没入させたのは、最大4人までの通信マルチプレイでした。それ以前にも『Doom(ドゥーム)』や『Quake(クエイク)』などのFPSゲーム、つまり一人称視点の3Dシューティング(銃や魔法を主人公キャラクターになりきった視点で撃つゲーム。主人公は画面上に登場しない)でのマルチプレイは存在していましたが、どれもが「通信の設定や、通信サーバーはユーザー側で用意してください」というものでした。ネットワークの専門知識がないプレイヤーは遊べなかったわけですね。
しかし『Diablo』を発売したブリザード社は、リリースと同時にオンラインゲームサービスBattle.netも立ち上げました。ゲームそのものにクライアント機能を内蔵しておき、プレイヤーは指示に従うだけでBattle.netに接続して、他のプレイヤーとマルチプレイが楽しめるようになったのです。
Battle.netは今でいうロビーサーバー、つまり「人と人を出会わせるマッチング」の仕組みの源流であり、『Diablo』はマッチングが成立した後は誰かのPCがサーバーとなって他のプレイヤーが接続する方式(P2P型)でした。そんなことを意識せずに遊べる、初めてのメジャーな成功例が『Diablo』であり、Battle.netだったわけです。
『Diablo』は当然、日本のプレイヤーも夢中にさせ、大ヒットを記録。上述した『Doom』や『Quake』も一部には知られていましたが、自前でゲームサーバーを立てる面倒さやネットワークの知識に対するハードルの高さ、国内では現在もなお敬遠されがちな(日本に銃文化がないことや、日本人は3D酔いに弱いためとの説もあります)FPSというジャンルのために、一部のマニアが熱狂するに留まっていました。
その点『Diablo』は日本でも定着しているアクションRPG、かつ「見下ろし型の2D画面上で、マウスをクリックするだけ」という操作のシンプルさもあり、すんなりと受け入れられました。そして通信ゲーム的にも、ちょうど月額制の通話サービスがが定着した頃というタイミングが絶妙だったのです。
『Ultima Online(ウルティマオンライン)』はネットの向こう側にある「もう1つの世界」
『Diablo』と同じ1997年、インターネット通信ゲームの歴史を変えたもう一つの存在が登場しています。それが『Ultima Online』(以下『UO』)です。今なおサービスが続く長寿な老舗オンラインゲームであり、2018年に基本プレイの無料制度を導入したことでも話題になりました(もともとは30日、90日、180日とプレイ期間に応じた前払い方式)。
本作はMMORPGゲーム、すなわち多人数同時参加型のオンラインRPGというジャンルです。『Diablo』との違いは「多人数」という通り、参加人数がケタ違いに多いことで、技術的にも仮想世界がゲームサーバー内に独立して存在していること――つまりプレイヤーが誰もいなくても世界は存在し、時間が流れていることです。
そして『Diablo』が「戦い」に重きを置いたのに対して、『UO』はもう一つの世界を構築する「ワールドシミュレータ」を目指したものです。選ばれし勇者が倒すべきラスボスも存在せず、現実と同じようにプレイヤーは日々の時間のなかで「ゲーム内の生活」を営んでいくわけです。
本作の最大の特徴とされるのが、キャラクター育成がレベル制ではなくスキル制を採用していること。一般のRPGゲームではモンスターを倒すことにより経験値を溜めてレベルを上げていきますが、『UO』では剣術や魔法といった様々なスキル(技能)が用意されており、そのスキルを組み合わせて自分だけのキャラを育成していくというものです。
最近のRPGゲームでもスキル制はありますが、『UO』はとんでもなくスキルの種類が豊富なのです。戦闘以外にも「採掘」や「伐採」、「釣り」といった材料の調達や、「鍛冶」や「大工」、「裁縫」などの物作り、果ては「調教」や「検死」、人のバッグからアイテムを盗む「スリ」までありました。たとえば採掘をして鉱物を入手してから武器を作ったり、それを自分で使わずに他人に売って生計を立てることも可能。途方もなく自由なキャラクター作り、自由度の高いプレイができました。
他のプレイヤーとのコミュニケーションも充実しているばかりか、「ギルド」なる集団を複数のプレイヤーと結成し、ギルド同士の戦闘を繰り広げることもできました。今ではタブー視されやすいPK、すなわち「プレイヤーがプレイヤーを倒す」行為も認められており、他人のアイテムをだまし取る詐欺もゲームシステムの不正利用がない限り黙認されます。本当に「もう1つの現実そのもの」ですね。
怖い面ばかりではなく、自分だけのマイホームを建てられるのは現代の『あつまれ どうぶつの森』などのご先祖様とも言えます。椅子やテーブルなどの家具、壁や床などの装飾、絨毯や溶鉱炉まで自作することもできます。そうした自分のゲーム内資産をコツコツと積み上げられるからこそ、詐欺も怖いのですけどね(笑)。
そうした自由度の高さ、人と人との関わりの面白さ(ギルド同士が互いに煽り合うことなどを含む)から、通信の遅い海外サーバーに繋ぐしかなかったにも関わらず、早々にはまり込む国内プレイヤーが続出したものです。
その反面、戦闘にはアクション性は全くなく、敵をダブルクリックした後は攻撃は自動で行われ、プレイヤーの反射神経がモノをいうことはありませんでした。それは『Diablo』とは対照的であり、だからこそ2つのインターネット通信ゲームが同時期に棲み分けられて、それぞれの面白さで幅広いプレイヤーを魅了したのでしょう。
しかし『UO』よりアクションが充実した『Diablo』も、言ってみれば「敵をクリックして倒し、アイテムを拾って先に進むだけ」の単純さで、今どきの凝ったゲームに慣れた目で見ればもの足りないところがあります。そうした弱点を「ネット越しに、見知らぬ人達と遊べる初めての体験」の面白さが補って余りあったわけです。
その一方で、同じ時期に対戦格闘などアクション性の高いゲームも「通信」と出会っていました。それがスーパーファミコンやセガサターンといった家庭用ゲーム機であり、通信対戦サービス「XBAND」です。
しかし、まだモバイル回線やWi-Fiも存在せず、そもそも家庭用ゲーム機が標準では通信に対応してなかった頃だけに(パソコンは「電話回線やネットに繋ぎやすい」という利点がありました)、今では想像も付かないような無茶な仕組みを使っていたのです……ということで、次回は「1990年代の家庭用ゲーム機と通信」のお話となります。
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