インターネットやSNSの利用が加速していく昨今、情報の発信には十分な注意が必要です。インターネット上でのトラブルは増えてきており、「デジタルタトゥー」という言葉も生まれました。
今回は、リバティ総合法律事務所の弁護士・石上秀樹先生に「デジタルタトゥー」の恐ろしさと、トラブルに巻き込まれてしまった場合の対処法などを教えていただきました。
ライター:佐倉一史
デジタルタトゥーとは?
デジタルタトゥーとは「デジタル」と刺青(いれずみ)を意味する「タトゥー」を組み合わせた造語。メキシコの研究者フアン・エンリケス氏が、2013年のTEDカンファレンスでテーマにしたことで、注目されはじめました。
2019年にはNHKが『デジタル・タトゥー』というドラマを放送したことで、日本での認知も広がりはじめました。
SNSなどインターネット上で発信した写真や文章を完全に削除することは難しく、半永久的に残ってしまいます。一度入れると消すことが難しいタトゥーに例えて、デジタルタトゥーといわれているのです。
デジタルタトゥーの具体例
基本的にインターネット上に公開された情報は、全てデジタルタトゥーに定義されます。今回は特に気をつけたい5つの情報をピックアップしました。
1.個人情報
実名や顔写真などはもちろん、検索履歴や閲覧履歴などの情報はデジタルタトゥーに分類されます。SNSなどへ投稿した画像から、位置情報を取得されてしまうケースもあるので、注意が必要です。
2.誹謗中傷・デマ情報
誹謗中傷や、事実とは異なるデマ情報などがインターネットに公開されると、一気に拡散される可能性があります。自分から発信した情報はもちろん、第三者が投稿した自分についての情報も、自分のデジタルタトゥーになってしまいます。
デマ事件についてまとめた記事にも書いていますが、誰かが投稿したフェイクニュースを、良かれと思って拡散してしまうケースもあります。
3.いたずらの投稿
日本でも話題になったSNSなどでの「アルバイトが冷蔵庫の中に入った画像」「床に落とした食材で調理する動画」などの投稿です。気軽に撮影した場所が進入禁止エリアだった、ということもあります。
4.リベンジポルノ
元交際相手や元婚約者が、腹いせに投稿する性的な画像や動画(リベンジポルノ)が問題になっています。2014年にリベンジポルノ防止法(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律)が可決されました。それ以降警察による取り締まりは厳しくなっていますが、投稿されてしまった画像や動画を完全に削除することの難しさは変わっていません。
5.逮捕歴・犯罪履歴
多くのニュースサイトで、犯罪情報や逮捕報道に実名が記載されています。もし冤罪で無罪・不起訴となった場合でも、就職や結婚などで不利になってしまう場合があります。
こういった情報は、まとめサイトや個人のブログなどにも転載されることが多く、最初に報道したニュースサイトの記事を消すことはできても、全て削除することは困難です。
デジタルタトゥーのトラブル対処法を弁護士に聞いてきました
デジタルタトゥーについて、被害者や加害者になってしまったときにどうしたらいいのか、リバティ総合法律事務所の石上秀樹先生にお話をお聞きしました。
生きる上で重荷になるデジタルタトゥー
――デジタルタトゥーは人生にどう影響するのでしょうか?
デジタルタトゥーの存在は新しい関係を築こうと思ったとき、問題になることが多いです。例えば就職や結婚、企業間の取引開始などの場合に、相手側にそれまで知られていなかった一面を知られてしまう一因になります。それによって関係構築が出来なくなるケースもあります。
相手の立場からすると隠されていた情報を事前に知ることができて助かりますが、当人にとっては知られたくない情報である可能性もあります。
さらに子供や子供の友人に知られる場合もあります。それにより子供との関係が変わってしまう可能性があるほか、子供がいじめられてしまうことだってあり得ます。
デジタルタトゥーというのは、生きる上でとても重荷になる存在といえるのです。
誰もが気軽に発言できる時代だからこそ、気を付けたい
――デジタルタトゥーの相談は増えていますか?
5年くらい前から少しずつ増えています。被害者の方が削除したいという内容ももちろんありますが、「こういうことを書いてしまったのですが、消すことはできますか」といった発言者からのご相談も多いです。
――発言者側の相談も多いのですね。
トラブルになる前に対処しておきたい発言者の方が多くいらっしゃいます。インターネットが普及して、誰もが自由に発言できるようになったからこそ、出てきたトラブルですね。
――まず被害者になった時にできることを教えてください。
ご自身で対処することもできなくはありませんが、早い段階で弁護士に相談されることをおすすめします。
まずデジタルタトゥーの内容が真実ではない場合、サイトやサーバーの管理者に対して削除を求めるだけではなく、発言者の情報を開示してもらい、発言者に対する責任追求も検討する必要があります。
内容が真実である場合も、デジタルタトゥーの存在が当人の重荷になってしまっている場合には、削除を求めることを検討していくことになります。
ただ発言者を特定して責任を追求することは容易ではなく、ましてや世の中に出回っているデジタルタトゥーを完全に消すことはほぼ不可能です。
デジタルタトゥーを消すこと自体、今の法律だと難しい
――デジタルタトゥーの削除は難しいのですか?
削除をするためにはデジタルタトゥーによって、個人の名誉やプライバシーなど人格権が侵害されていると判断され、各Webサイトの管理者が削除に応じてくれなければなりません。ただ当事者の意思とは関係なく広がってしまった場合、全ての投稿を特定して削除していくのは現実的ではありません。この場合はGoogleやYahoo!といった検索エンジンを相手に削除請求をすることになります。認められるには高いハードルを越えなければなりません。
発言者を特定して制裁を加える場合も高いハードルがあります。まず「当該情報の流通によって自己の権利が侵害されたことが明白であること」を証明しなければ、各プロバイダへ発言者情報の開示をお願いすることができません。この発言者情報であるアクセスログですが、保管期間は通常3カ月〜半年しかなく、この期間を過ぎてしまうと、特定がさらに困難になります。
――実際に弁護士に相談する場合、どのような内容になりますか?
私の場合ですが最初の相談の段階で、決して高いとはいえない費用対効果を正直にご説明します。
手続きを進められる決断をされた場合は、投稿の削除だけでいいのか、発言者に対する責任追及までするのかを確認して、進めさせていただきます。
Webサイトの管理者が任意の削除に応じない場合は、裁判所を介して各Webサイトの管理者へ削除を依頼する手続きが1つ必要になります。さらに発言者の責任追及をする場合は、運営会社へIPアドレスの開示請求と、サーバーの管理会社へIPアドレスから個人を特定する、2つの手続きも必要です。仮に発言者らの情報が判明しても、発言者らの責任が認められるまで、そこからさらに半年から2年もかかってしまう場合もあります。この手続きのややこしさも相まって、デジタルタトゥーの削除や発言者への責任追及が難しくなってしまっているのです。
――削除と責任追及、それぞれの費用はどのくらいでしょうか?
裁判手続きを利用しない場合は、1つの手続きにつき5〜10万円程度の着手金、同額程度の成功報酬が相場です。もし裁判手続きを利用する場合は、1つの手続きにつき20万円程度の着手金、15万円程度の成功報酬が相場ですね。
もし発言者へ損害賠償請求をするとしても、現在認められているのが20〜40万円程度なので、費用倒れになるリスクが高いのが現実です。
かかるリスクが負えない被害者は泣き寝入りするしかありません。このような現状は問題であることから手続きをより使いやすいものにするため、法の改定も検討されています。
――トラブルに巻き込まれないために気を付けるべきことはありますか?
まず、全ての他人の投稿を事前にチェックすることは不可能なため、自分が被害者になることを完全に防ぐことはできません。そのため加害者にならないために気を配ることが大切です。どんな投稿内容でも、何かのきっかけで個人情報と共に第三者へ知られてしまう可能性があることは、意識しておくべきだと思います。私個人としては「完全な匿名空間などこの世に存在しない」という認識が広まってほしいと思っています。
またどんな内容の発言でも、社会的に制裁を受ける可能性がある、その自覚を持ってインターネットと上手く付き合ってもらいたいと思います。
まとめ
インターネットやSNSの普及で誰もが情報を発信できる立場に変わりました。情報収集もより簡単になったからこそ発信内容がデジタルタトゥーとして残ってしまう可能性を考え、ネットでの発信には慎重さが必要です。対処法や予防策を学ぶことで、うまくインターネットと付き合っていきましょう。
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