大阪の「味園ユニバースビル」をメタバース空間に。制作者に狙いを聞いた

現在、注目を集める仮想空間「メタバース」。
日本でも「バーチャル渋谷」「バーチャル原宿」などの再現化が進む中、65年の歴史を誇り、時代を映す鏡として大阪のカルチャーをけん引してきた「味園(みその)ユニバースビル」が文化体験の新たな場として、XR技術によってオンライン上に再現されました。
今回は味園ユニバースを新たな宇宙・メタバースへと拡張させるプロジェクト「UNIVERSE 1956」主催であるCOSMIC LABの高良 和泉さんへインタビューしてきました。

ライター:佐倉一史

「味園ユニバースビル」とは?

「味園ユニバースビル」は1956年大阪・千日前に誕生した、巨大な歓楽施設です。当時はキャバレーやダンスホール、宴会場などを併設しており、大阪の昭和カルチャーをけん引してきました。現在でも個性的なライブ会場や飲食店が揃う「サブカルの聖地」としても有名なスポットです。

なぜ味園ユニバースビルをメタバースに再現したのか、開発プロジェクト担当者に聞 いてきました

味園ユニバースビルをメタバースに再現するプロジェクト「UNIVERSE 1956」について、共同プロジェクトチームのCOSMIC LABの高良 和泉さんにオンラインでインタビューしました。

過去と現在、バーチャルな味園ユニバースビルを体験「Dive into the Universe」

ーーなぜ、味園ユニバースビルをメタバースに作ろうと思ったのでしょうか?

我々COSMIC LABは、20年以上前にこの味園ユニバースビルに強烈に心惹かれて以来、現在に至るまで活動の拠点にして来ました。このビル、そしてここに集う人々と触れ合うにつれ、この場所で積み重ねられてきた魅力的な歴史と文化を発信したいと、長年構想してきました。今回、幸いにも観光DX推進プロジェクトとして採択され、同ビルの協力により特別に入場許可を得て、XR技術を使った撮影が実現し、スタートを切ることが出来ました。
現地に足を運び辛い今だからこそ、世界中からアクセスできるVR空間を体験してもらい、実際にこのビルに足を運んでみようと思っていただけるものにしたいと思っています。

ーー現在はどのようなコンテンツがあるのでしょうか。

2つのコンテンツ

大きく分けて2つのコンテンツがあります。
1つはバーチャル空間を構築した、現在と過去の味園ユニバースビルを散策できる「Dive into the Universe」。グランドキャバレー時代の貴重な資料や、新進気鋭のフォトグラファー達の写真展など、3D空間を移動しながら鑑賞していただけます。
この空間はフリーアクセスで解放しているので、Webブラウザおよびアプリを通じていつでも体験していただくことができます。
もう1つは、現在も音楽文化を発信し続けているこのビルならではなのですが、構築したバーチャル空間を音楽ベニューとして捉え、そこからライブショーケースをお届けした「Live from the Universe」になります。当時のキャバレーでの生演奏が録音されたオープンリールテープ音源等を使用したライブのアーカイブをYouTubeに公開しています。 ぜひご覧になってください!

ーーどのようにしてバーチャル空間に味園ユニバースビルを作ったのでしょうか?

味園ビルが刻んできた長い歴史は、現在の味園ユニバースビルを訪ねてもなかなか伝わるものではありませんが、今回の制作では、味園ユニバースビルの好意のもと、ビル内に残された貴重な資料をたくさん見つけることができました。もちろん現在のビルの図面はあるのですが、創業当時の図面は残っておらず、発掘した資料の中から建築時のラフ画スケッチ、写真のネガなどを元にしてバーチャル空間の土台となるビル外観やキャバレーを作っていきました。

ーー細かな寸法が分からない中での作業だったのですね。

流石にスケッチと写真だけでは限界があったので、当時の味園ユニバースビルを知る関係者に話しを伺い、「ここに階段があった」「ここにはこんな装飾があった」と細かな部分を調整してい きました。ただ50年以上前の事なので、記憶だけに頼ることは出来ませんでした。

ーー実際に「Virtual Universe」を拝見しましたが、当時の写真やスケッチが多数展示されてい ました。

当時の写真やスケッチの展示

デジタル空間に展示することで、場所を問わずにアクセスできるようになります。高度経済成長期特有のエネルギー溢れるビジュアル資料も多く、味園ユニバースビルが発信してきた文化や歴史に触れた方が、現在進行形で形成されていくカルチャーにも興味を持ってもらい、実際にこのビルに足を運んでいただければ幸いです。

最盛期のキャバレー・ユニバースのステージを再現したショーケース「Live from the Universe」

最盛期のキャバレー・ユニバースのステージを再現

創業当時よりキャバレーと共に、ダンスホールとしても営業していた「ユニバース」。僕らも20年以上前から音楽や映像、空間装飾を中心としたイベントを主催したり、「ユニバース」は現役のライブ会場として営業を続けており、そんな音楽ベニューとしての文化的背景を、今のXR技術を活かしてアップデートさせ、ライブを届けたい!と考えたんです。

ーーそれが「Live from the Universe」なんですね。

当時のグランドキャバレー「ユニバース」には、ダンサーを乗せたまま上下に動く空中ステージが5基あり、常々体験してみたいと思っていました。当時のオーケストラバンドの生演奏が録音されたオープンリールテープには、ラテン音楽やエギゾチズムあふれるムード音楽が収録されており、文化的にも貴重な資料でした。それを活かし、リエディットの名手・DJのALTZさんや、DMC世界チャンピオンでもあるDJ YASAさんに協力していただき、発掘した音源だけで構成し たスペシャルセットを作ってもらいました。
また、HI-Cさんには現在の「ユニバース」にてDJプレイをしていただき、ポイントクラウド化されたバーチャルユニバースと融合する映像演出をご覧いただけます。

ーーアーカイブを見させていただいたのですが、すごいステージですよね。

DJプレイ

ALTZさんとYASAさんが演奏しているのは、味園ユニバースビルにある弊社のスタジオで、奇しくも65年前に実際のキャバレーのステージがあった場所なんです。弊社が開発した、クロマキー撮影のバーチャルプロダクションシステムを用い、リアルタイムにCG空間と合成しました。撮影空間は限られていても、没入感のあるステージを再現できるのは、デジタルならではですね。
さらにライブの時の照明演出は、東京のクリエイターが遠隔でリアルタイムに制御してました。出演者 は大阪で、ステージ演出は東京、舞台はデジタル空間という、場所を超えたライブだったんですよ。

「やっとベースが完成、次なる第二章へとアップデートしていく」

ーー「UNIVERSE 1956」は今後どのように活用していくのでしょうか?

UNIVERSE 1956

高度経済成長期から続く文化やその変遷は、地元の人も知らないことが多く、今公開しているアプリやコンテンツを一つのきっかけとして、味園ユニバースビルに関する会話が生まれ、その歴史や文化に興味を持ってもらいたいと願っています。まだこのビルをご存知ない方に足を運んでみようと思っていただけるだけでなく、地元の方々のネットワークを育み、地域の活性化に繋がれば本望ですね。
また、バーチャル空間の中でもコミュニケーションが可能な機能を実装させ、ハブとして多くの方に利用していただけるスペースにしていきたいと思っています。まだまだ公開出来ていない貴重な資料も数千点あるので、書籍化なのか、世に出していければと考えています。必然ではありますが、当時を知る人は少なくなるので、グランドキャバレー時代を知る方にお話しを聞かせていただきたいですね。
将来的には、周辺のミナミエリアと接続していくものになれば、また面白い展開になるかと思っています。

ーーより「メタバース」として味園ユニバースを体験できるのには期待が高まります。

オリジナルの味園ユニバースビル自体「大人の社交場」でしたからね。ここでさまざまな出会いが、ドラマが、文化が 生まれていたはずです。味園ユニバースビルに世界中の愛好家が集まって、コミュニケーションの場となれば、新たな味園ユニバースビルの文化になりそうですよね。

ーーバーチャル空間を使ったイベントも色々とできそうですよね。

音楽ライブやコミュニケーションハブだけでなく、様々なショーケースやカンファレンス、番組やイベントに活用していきたいと思ってます。ご希望の方はお気軽にご相談下さい。
このビルは今でも「人と人を繋ぐ」場所であり、バーチャル空間の活用の際にもいろんな人と繋がっていきたいですね。

まとめ

大阪の昭和文化を象徴する「味園ユニバースビル」のデジタル化プロジェクト。2021年12月に公開され、貴重な資料の展示やキャバレーの再現空間など、さまざまなコンテンツを体験すること ができます。さらに今後もアップデートを繰り返し、いつかはメタバース化されると予想されます。 今後の「UNIVERSE 1956」プロジェクトから目が離せません。

UNIVERSE 1956特設サイト
COSMIC LAB


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※上記掲載の情報は、取材当時のものです。掲載日以降に内容が変更される場合がございますので、あらかじめご了承ください。

  • ライター

    佐倉一史

    エンタメ、ガジェット、ITなど何でもござれの器用貧乏系ライター。最近購入したiPadについて、仕事・プライベートを充実させる便利な活用法やアプリを模索中。

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